「大安寺川ホタルの里って高山のほうにあるの?」と検索して、この記事にたどり着いた方もいるかもしれません。結論から言うと、大安寺川ホタルの里があるのは岐阜県各務原市鵜沼大安寺町2丁目。飛騨ではなく、木曽川沿い、犬山城の対岸にあたるエリアです。全長わずか2.3kmの小さな川に、初夏の夜だけゲンジボタルが約400匹舞う——岐阜県内でも指折りの、そして少しばかり「行き方に癖のある」ホタルスポットです。
癖というのは、ずばり駐車場がないこと。岐阜県観光公式サイトも各務原市観光協会も、そろって「駐車場無し・公共交通機関でお越しください」と案内しています。JR鵜沼駅からも名鉄鵜沼宿駅からも徒歩25分。しかもホタルが飛ぶのは日が完全に落ちた20時前後で、遊歩道には街灯がありません。この2つを知らずに車で向かうと、真っ暗な住宅街で駐車場所を探してさまよう羽目になります。
この記事では、大安寺川ホタルの里の基本情報から、見頃の読み方、駐車場問題の現実的な越え方、持ち物と服装、そしてゲンジボタルの光り方の話まで、現地で困らない順番に整理しました。岐阜県内のほかのホタル名所との比較表も載せているので、「今年はもう時期を逃したかも」という方も、次のシーズンの計画に使えるはずです。
・大安寺川ホタルの里の場所・見頃・ベストな時間帯
・駐車場がない現地へ、車と電車どちらで行くべきか
・暗闇の遊歩道で失敗しない持ち物と服装
・岐阜県内のホタル名所8か所との見頃・駐車場比較
大安寺川ホタルの里とは?全長2.3kmの小川に約400匹が舞う理由

大安寺川ホタルの里は、各務原市東部を流れる大安寺川の上流に整備されたビオトープです。「里」といっても入場ゲートや売店があるわけではなく、小川沿いに遊歩道が続き、「ホタルの里」の看板が立っているだけの、素朴な場所。だからこそ、光を消して立ち止まったときの静けさが濃いのです。
木曽川に注ぐ全長2.3kmの川が、県内屈指のホタル名所になった
大安寺川は木曽川水系の一級河川で、延長はわずか2.3km。各務原市鵜沼西町付近を水源とし、鵜沼古市場町付近で木曽川に合流します。「一級河川」と聞くと大河をイメージしますが、実際は歩いて数分でまたげてしまうような細流です。
しかもこの川、もともとホタルにとって好条件だったわけではありません。上流域で宅地開発が進んだことや農業用水の取水の影響で、かつては水が全く無いこともあったと記録されています。水が涸れればゲンジボタルの幼虫は生きられません。それでもいま約400匹が飛ぶのは、後述する保護活動が半世紀近く続いてきたからです。
観賞に向いているのは、看板のあるビオトープ付近から上流側。橋の下や、東側の崖に近いあたりに光が集まりやすいという現地レポートもあります。川幅が狭いぶん、ホタルが目の高さすれすれを横切っていく距離感が味わえるのが、この場所ならではの魅力です。ただし遊歩道は未舗装で、柵のない崖に面した区間もあるため、走り回るような歩き方は禁物です。
「大安寺川ホタルを育てる会」51人が1979年から守ってきた光
この光景を支えているのが「大安寺川ホタルを育てる会」。1979年(昭和54年)に発足し、現在51名の会員が各務原市のパークレンジャーとして大安寺川のホタル保全に取り組んでいます。公園の整備、イベント運営、研修が主な活動内容です。
そして1984年(昭和59年)から始まったのが「大安寺川ホタル祭り」。会が主催し、毎年6月上旬から下旬にかけて開催されます。期間中はボランティアと育てる会のガイドが現地に常駐し、「今日は何匹くらい出ていますか」「どこが見えやすいですか」といった質問に答えてくれるのが、他のホタルスポットにはない大きな価値です。ホタルの発生は年によって前後するため、開催期間も約10日間から30日間と毎年変わります。
📜 歴史メモ
大安寺川ホタルを育てる会の発足は1979年。ホタル祭りが始まったのはその5年後の1984年です。会の発足から祭りの開催まで5年かかっているのは、まず「見せる」より先に「棲める川に戻す」ことから始めた順序の表れとも読めます。いま歩ける遊歩道もビオトープも、40年以上の地道な整備の積み重ねの上にあります。
入場無料・見学自由|まず押さえたい基本情報
大安寺川ホタルの里は入場無料、見学自由です。チケットも予約も不要で、思い立った日に行けるのが良いところ。ただし駐車場・トイレ・コンビニがないため、「ふらっと寄る」より「準備して向かう」場所だと考えてください。
問い合わせ先は各務原市観光交流課(058-383-9925)。その年のホタル祭りの日程やホタルの発生状況は、各務原市観光協会や岐阜県観光公式サイトのイベントページで公開されます。訪問前日に一度チェックしておくと空振りが減ります。
| 住所 | 〒509-0117 岐阜県各務原市鵜沼大安寺町2丁目 |
| 問い合わせ | 058-383-9925(各務原市観光交流課) |
| 見学時間 | 見学自由(見頃は19時30分頃〜21時頃、ピークは20時〜20時30分頃) |
| 入場料 | 無料 |
| ホタル | ゲンジボタル 約400匹/見頃6月上旬〜中旬 |
| 駐車場 | なし(公共交通機関の利用が推奨されています) |
| アクセス | JR鵜沼駅から徒歩25分/名鉄鵜沼宿駅から徒歩25分 |
| 公式情報 | 岐阜県観光公式サイト「岐阜の旅ガイド」 |
ホタルの里の看板付近がベストポジション
どこに立つかで見え方が変わります。育てる会や観光協会が案内しているおすすめのビューポイントは、大安寺川沿いの「ホタルの里」の看板があるビオトープ付近。ここは川の流れがゆるく、幼虫の餌になるカワニナが育ちやすい環境が整えられています。ホタルが集まる場所には理由があるわけです。
使い方としては、まず明るいうちに現地に着いて地形を目で覚え、日没後は動かずに一か所で待つのがおすすめ。ホタルは人が歩き回ると光が減ったように感じられますし、暗闇で移動すること自体が危険です。カップルや一人旅なら、看板付近から少し上流に離れた静かな区間のほうが落ち着いて眺められます。
注意点として、期間中の週末は地元の家族連れで細い遊歩道が混み合います。三脚を立てての長時間撮影は通行の妨げになりやすいため、混雑する20時台を避けるか、そもそも肉眼で楽しむ日と割り切るのが無難です。
見頃はいつ?たった2週間のピークを外さない読み方
ホタル観賞は「行けば見られる」ものではありません。時期・時刻・天気の3つが噛み合った夜だけ、あの光景が現れます。ここでは外さないための読み方を順に整理します。
見頃は6月上旬〜中旬|2026年の祭りは5月30日〜6月14日だった
大安寺川ホタルの里の見頃は6月上旬〜中旬。年によっては6月下旬まで見られることもありますが、光の量がピークになるのはおおむね2週間ほどです。2026年の「大安寺川ホタルまつり」は5月30日(土)〜6月14日(日)の日程で開催されました。
翌年の日程を知りたい場合、この2026年の期間が有力な目安になります。ただし前述のとおり開催期間は約10日間から30日間と毎年変わるため、「去年と同じ日程」と決め打ちするのは危険です。5月に入ったら各務原市観光協会のサイトを月1回チェックし、開催告知が出たら日程を確保する——このリズムが一番確実です。
ファミリーで行くなら祭り期間中の土日、静かに見たいなら期間中の平日、と使い分けるのも手。平日でもホタルは飛びますし、ガイドが常駐している期間中であれば疑問もその場で解消できます。
光り始めは19時30分、ピークは20時〜20時30分
時刻はかなりシビアです。岐阜県観光公式サイトは「午後8時頃が見頃」、おすすめの時間帯として「午後8時半ごろ」を挙げています。現地レポートでも、19時30分過ぎに最初の光が現れ、20時台にピークを迎えるという観察が報告されています。関市のホタルでも飛び交う時間帯は20時〜21時頃とされており、県内おおむね共通の傾向です。
逆に言えば、19時に着いても「まだ何もいない」状態です。18時台に現地入りして日没まで待つ計画は、蚊に刺されるだけで消耗します。おすすめは19時15分頃に到着して目を暗さに慣らし、19時30分から21時までを勝負時間にすること。人間の目は暗順応に20分ほどかかるので、この「早すぎず遅すぎない」到着が効きます。
注意点は帰りの足。鵜沼駅まで徒歩25分かかるため、21時に切り上げても駅に着くのは21時30分近く。終電が早い路線ではないとはいえ、乗り継ぎがある方は事前に時刻表を確認しておいてください。
「蒸し暑い・無風・月のない曇り夜」が当たりの条件
ホタルがよく飛ぶ夜の条件は、風がなく、湿度が高く、月明かりが弱い夜です。雨上がりの蒸し暑い曇天の夜が典型的な「当たり」。逆に、雨が降っている最中、風の強い夜、気温が下がった夜は光の数が目に見えて減ります。
大安寺川ホタルの里は谷筋の細い川なので、風の影響は市街地の川より受けにくいものの、それでも強風の夜は厳しいと考えたほうがいいでしょう。旅程に余裕があるなら、滞在中の2晩のうち条件の良さそうな夜を選ぶ、という組み方が理想です。
デメリットも正直に書いておくと、蒸し暑い無風の夜は蚊が最も多い夜でもあります。当たりの夜ほど虫刺されのリスクが高い、というのがホタル観賞の宿命。対策は後述します。
【失敗パターン1】6月下旬に予定を組んでシーズン終了に間に合わなかった
「ホタル=夏休みの風物詩」というイメージで7月に予定を組むと、大安寺川では完全に空振りです。ゲンジボタルの成虫が発生するのは5月から6月にかけて。成虫の期間は2〜3週間しかありません。実際に6月27日に訪れて「すでにピークを過ぎていた」という現地レポートもあります。
この失敗の原因は、種類と場所で発生時期が違うことを知らないまま予定を立てることにあります。同じ岐阜県内でも、下呂市の門和佐川のように6月下旬〜7月上旬が見頃の場所もあれば、岐阜市の板屋川のように5月下旬〜6月上旬でピークを迎える場所もあります。標高と水温の差がそのまま時期の差になるためです。
対策はシンプルで、「行きたい日」ではなく「見られる日」から旅程を逆算すること。6月の第1週〜第2週の週末を先に押さえ、その前後に他の予定を入れる。どうしても6月下旬しか動けないなら、大安寺川ではなく下呂方面のスポットに切り替える。この判断ができるだけで、空振りはほぼ防げます。
大安寺川ホタルの里へのアクセス|駐車場なしという最大の関門

この場所で唯一にして最大の課題が駐車場です。岐阜県観光公式サイトにも各務原市観光協会にも「駐車場無し」と明記されており、公共交通機関の利用が推奨されています。飛騨をはじめ岐阜は車社会ですが、ここに関しては車が最適解ではありません。
JR鵜沼駅・名鉄鵜沼宿駅から徒歩25分の夜道をどう歩くか
最寄り駅はJR高山本線の鵜沼駅と、名鉄各務原線の鵜沼宿駅。どちらからも徒歩25分と案内されています。JR鵜沼駅と名鉄新鵜沼駅は「鵜沼空中歩道」で結ばれており、屋根付き・エレベーター付きで乗り換えできるため、雨の日でも移動しやすいのは利点です。
25分という数字は、平坦な道を明るい時間に歩いた場合の目安です。帰りは真っ暗な住宅街を歩くことになるので、体感ではもう少しかかります。行きは日没前の明るいうちに歩いて道を覚えておき、帰りは同じ道を戻る——この往復の組み方が最も安全です。
ドライブ旅の途中で立ち寄りたい場合の現実解は、鵜沼駅周辺のコインパーキングに車を置き、そこから徒歩で往復する方法。駅前なら夜間も明るく、車を停めた場所を見失う心配もありません。デメリットは往復50分の徒歩時間が旅程に加わること。小さな子ども連れや、翌日に長距離を走る予定がある日は無理をしないほうがいいでしょう。
車で行くなら|路上駐車が招くトラブルと「臨時駐車場」の実際
| 電車+徒歩で行くメリット | 車で行くデメリット |
|---|---|
| 駐車場所を探すストレスがゼロ ヘッドライトでホタルを驚かせない 帰りの狭い夜道の運転を回避できる 鵜沼空中歩道でJR・名鉄の乗り換えが楽 | 公式に駐車場がなく路上駐車は近隣トラブルの元 周辺道路が複雑で一度間違えると辿り着きにくい 暗い住宅街での方向転換が難しい Uターンや徐行のライトが観賞の妨げになる |
各務原市観光協会も「ホタルはヘッドライト等のまぶしい光が苦手なため、公共交通機関等でお越しください」と呼びかけています。つまり駐車場がないのは単なる設備不足ではなく、ホタルの生息環境を守るための結果でもあるわけです。
なお、祭り期間中は大安寺の境内が臨時駐車場として開放される、という記載も見られます。ただし公式の観光案内では一貫して「駐車場無し」の案内が続いているため、これをあてにして向かうのは避けてください。どうしても車で行く必要がある場合は、事前に各務原市観光交流課(058-383-9925)へ電話でその年の運用を確認するのが確実です。
名古屋・岐阜市方面からのルートと最寄りIC
鵜沼エリアは交通の便がよく、名古屋方面からは名鉄犬山線で新鵜沼駅まで直通、岐阜市方面からは名鉄各務原線1本でアクセスできます。JR高山本線を使えば岐阜駅からも乗り換えなしです。ホタル観賞に限っては、この鉄道アクセスの良さがそのまま強みになります。
車の場合の最寄りICは、東海北陸自動車道の岐阜各務原ICと、中央自動車道の小牧東IC。木曽川を渡ればすぐ愛知県犬山市というロケーションで、犬山城からも車で15分ほどの距離感です。ただし前述のとおり、現地に着いても停める場所がないという問題は変わりません。ICから降りたら、まずは鵜沼駅周辺の駐車場を目指すのが実務的なルートになります。
周辺道路について現地レポートでは「とても複雑で、一つ道を間違えるとたどり着けなかったりする」と指摘されています。細い住宅路と川沿いの道が入り組んでいるため、夜間にナビだけを頼りに突入するのは避け、明るいうちに一度周辺を走って地形を把握しておくことをおすすめします。
暗闇の遊歩道で失敗しないための持ち物と服装
ホタル観賞は「何も持たずに行ける」ようでいて、実は準備の差が体験の質を大きく左右します。ここは装備と現地マナーの話です。
懐中電灯は「持っていくが、現地では消す」が正解
矛盾しているようですが、これが答えです。遊歩道は未舗装で街灯がなく、柵のない崖に面した区間もあるため、足元を確認する手段なしで歩くのは危険。一方でホタルは強い光を嫌い、岐阜県観光公式サイトも「懐中電灯などの光源は持参しないよう」というトーンで案内しています。
実際の運用としては、移動中だけ光量を落として足元だけを照らし、観賞地点に着いたら完全に消す。スマホのライトは光が白く強すぎるので、可能なら赤いセロハンを一枚かぶせた懐中電灯を用意すると、目の暗順応を壊さずに済みます。カメラのフラッシュは論外で、ホタルの飛翔と発光を確実に止めてしまいます。
家族連れの場合は、子どもに「ライトを持たせない」ことが実は一番のマナー対策になります。代わりに、光らない反射材付きのリストバンドを腕に付けさせておくと、暗闇で親からの視認性を保ちつつ、ホタルへの影響もありません。
虫よけスプレーは控えめに|服装で防ぐのが基本
現地の案内では、蚊対策として虫よけの薬品はできるだけ避け、露出の少ない服装で防ぐことが推奨されています。理由は明快で、殺虫・忌避成分は昆虫であるホタルにも影響しうるからです。「自分だけ守れればいい」が通用しないのが、保護区での観賞です。
具体的には、6月でも長袖の薄手シャツ・長ズボン・くるぶしの隠れる靴下・スニーカー。川沿いは日中の気温より数度低く感じることが多く、長袖でも暑くて後悔することはあまりありません。首元にタオルを一枚巻いておくと、蚊に刺されやすい首まわりを物理的に守れます。
デメリットもあります。完全防備の服装は写真映えしませんし、蒸し暑い夜は汗をかきます。それでも、刺されて痒みに気を取られながら光を眺めるより、はるかに良い時間になります。どうしても心配な方は、現地に入る前に駅などで使い、会場では追加使用しない、という使い方に留めるのが折衷案です。
📝 ホタル観賞の持ち物チェックリスト
- 光量を落とせる懐中電灯(現地では消す前提で足元用)
- 長袖シャツ・長ズボン・くるぶしが隠れる靴下
- 歩き慣れたスニーカー(未舗装路・25分の徒歩に耐えるもの)
- 首に巻けるタオル(蚊よけ兼汗拭き)
- 飲み物(現地に自販機・コンビニはありません)
- モバイルバッテリー(帰路のナビと時刻表確認用)
トイレ・コンビニなし|済ませておく場所を決めておく
現地にはトイレも売店も自動販売機もありません。往復の徒歩を含めると、駅を出てから戻るまで最短でも1時間半以上。子ども連れや高齢の家族と行く場合、この点は真っ先に計画に組み込むべきです。
現実的な段取りは、鵜沼駅または新鵜沼駅の周辺でトイレと飲み物を済ませてから歩き出すこと。夕食も駅周辺で先に済ませておくと、20時台にお腹が空いて集中できない、という事態を避けられます。ホタルの時間は約1時間半しかないので、その前後の用事は全部先に片付けておくのが鉄則です。
ペットについても、現地では入場が推奨されていません。犬の鳴き声や動きは他の観賞者の妨げになりますし、暗闇でリードを引かれて転倒するリスクもあります。ペット同伴の旅の場合は、車内待機ではなく、そもそも別日程・別スポットにするのが安全です。
【失敗パターン2】足元を軽装で行き、暗い未舗装路で転びかけた
サンダルやヒールで訪れて、街灯のない未舗装の遊歩道で足を取られる——これがこの場所で最も起こりやすい事故です。現地には柵のない崖に面した区間があり、転倒が転落につながる危険も指摘されています。「駅から歩くだけ」という軽い気持ちが、装備の油断を生みます。
原因は、ホタル観賞を「散歩」の延長で捉えてしまうことにあります。実際には、往復50分の徒歩+街灯のない未舗装路での立ち止まり待機という、軽いナイトハイクに近い行程です。夏の夕方に涼しげな服装で出かけたくなる気持ちはわかりますが、足元だけは妥協しないでください。
対策は、歩き慣れたスニーカーを履くこと、そして観賞中は移動を最小限にすること。着いたら一か所を決めてそこに留まり、動くときは必ず足元を照らしてゆっくり歩く。これだけで危険はほぼ消えます。カップルで訪れるなら、写真映えする靴は駅のロッカーに入れておいて、現地は実用靴で——という割り切りが賢明です。
光が2秒に1回なのはなぜ?知ると見え方が変わるゲンジボタルの話
ただ「きれいだった」で終わらせるのはもったいない。ゲンジボタルの生態を少し知っておくと、目の前の光の意味が変わります。ここは待ち時間に家族へ話せるネタとしても使えます。
幼虫はカワニナを食べて育つ|きれいな川にしか棲めない理由
ゲンジボタルの成虫は体長15mm前後で、日本産ホタル類の中では大型の種類です。幼虫は孵化するとすぐ川の中へ入り、清流の流れのゆるい所でカワニナという巻貝を捕食しながら成長します。
ここが重要で、ホタルを守るには「ホタルを守る」だけでは足りません。カワニナが育つ水質と流れ、そのカワニナが食べる藻類が付く石——川全体の生態系が揃って初めて成虫が飛びます。大安寺川で育てる会が公園の整備を続けているのは、まさにこの連鎖を維持するためです。
この話を知ってから遊歩道に立つと、光っている虫だけでなく、その足元の川底が見えてきます。子どもと一緒に行くなら、「あの光は、この川の石の下で1年近く暮らしていた虫が大人になった姿だよ」と伝えてみてください。夏休みの自由研究のテーマにもそのままつながります。
実は東日本と西日本で光る間隔が違う
意外と知られていないけれど、ゲンジボタルの発光パターンは西日本が約2秒間隔、東日本が約4秒間隔で、西日本のほうがテンポが速いことがわかっています。境目はフォッサマグナ西縁地帯。佐賀大学などの研究で、この違いが遺伝子に由来することが世界で初めて確認されました。岐阜はこの境目の西側。つまり大安寺川で見るのは「テンポの速い光」ということになります。
この知識が面白いのは、旅先での見え方が変わるからです。関東でホタルを見たことがある人が大安寺川に来ると、「なんだか忙しない」と感じるかもしれません。逆も然りで、岐阜で見慣れた人が東日本で見ると、ゆったりして見える。同じ「ゲンジボタル」でも、地域によって光のリズムが違うのです。
実際に現地で数えてみるのも一興です。一匹に狙いを定めて、光る間隔を心の中で数える。それだけで、ぼんやり眺めていた光が「個体の振る舞い」として見えてきます。カメラを構えるより、この数え方のほうが記憶に残る、というのが正直なところです。
ただし注意点として、複数の個体が同調して光る場面では間隔が読みにくくなります。また、飛翔中と静止中でも光り方は変わります。厳密な観察をしたいなら、川辺の草に止まっている個体を選ぶのがコツです。
成虫の命は2〜3週間|だから見頃が短い
ゲンジボタルの成虫でいられる期間は2〜3週間ほど。この短さが、そのまま「見頃が2週間」という制約の正体です。しかも成虫は水を飲むだけでほとんど何も食べません。飛んで、光って、相手を見つけて、卵を残す。それだけのために与えられた2週間です。
成虫が発生するのは5月から6月にかけて。個体ごとに羽化のタイミングがずれるため、シーズン全体では1か月前後の幅がありますが、一匹あたりの持ち時間は変わりません。「今年は行けなかったから来年」と言えるのは人間側の都合であって、目の前の一匹にとってはその夜が一生のうちの数日なのです。
この事実を踏まえると、観賞マナーの理由も腑に落ちます。強い光を当てれば、その個体の求愛の時間を奪うことになる。捕まえて持ち帰れば、その個体は卵を残せない。「見せてもらっている」という感覚で立つと、自然と静かになります。家族連れなら、この話を歩きながら伝えておくと、現地で「静かにしなさい」と叱る必要がなくなります。
光は求愛のサイン|草むらの弱い光にも意味がある
ゲンジボタルが光を放つのは、広い川の中で分散してしまった個体が、成虫になったときに互いを見つけるためです。飛び回りながら強く光っているのは主にオス。草の陰でじっとしている弱い光は、それに応えるメスであることが多いとされます。
だから、空中を舞う光ばかり追わずに、足元の草むらにも目を向けてみてください。動かない小さな光がぽつぽつと見つかるはずです。空中と地上、二種類の光の対話を見ていると思うと、同じ景色が立体的になります。一人旅で訪れるなら、この「静かに探す」楽しみ方が一番贅沢かもしれません。
気をつけたいのは、草むらに近づきすぎないこと。メスや卵、羽化直前の個体がいる可能性のある場所です。遊歩道から外れて踏み込むと、来年の光を減らすことになりかねません。見つけたら、その場から眺める。それがこの場所での正しい距離感です。
誰と行くかで変わる楽しみ方|家族・カップル・一人旅・ドライブ
同じ1時間半でも、同行者によって最適な組み立ては変わります。ここではタイプ別に現実的なプランを提案します。
家族連れ|「待ち時間の設計」がすべて
子ども連れで最大の敵は、19時30分までの待ち時間です。暗くなるのを待つ間に飽きてしまうと、いざピークの20時に集中力が切れています。おすすめは、日中に各務原市内を観光して夕方いったん食事を済ませ、19時15分頃に現地入りする流れ。「移動→食事→観賞」とリズムを作ると、待ち時間そのものが消えます。
日中の組み合わせ先としては、入園無料の河川環境楽園オアシスパークが便利です。駐車場が1,560台と大きく、9:30〜22:00と営業時間も長いため、時間調整の受け皿になります。ここで昼を過ごし、夕方に鵜沼へ移動する、というのが定番の動線です。
注意点は、幼児連れの場合の帰路です。徒歩25分を眠くなった子どもを抱えて戻るのは、かなりの重労働。未就学児がいるなら、駐車場ありの別スポット(後述の比較表を参照)を選ぶという判断も、決して逃げではありません。
各務原エリアで日中の予定を組みたい方は、こちらも参考にしてください。

「各務原って何があるの?」と聞かれたら、答えに迷う人は多いかもしれません。名古屋から電車で約30分、岐阜市からも車で20分ほどの場所にありながら、飛騨高山や白川…
カップル|混雑する看板前を外して静かな区間へ
二人で行くなら、人の多い看板付近から少し離れた区間がおすすめです。細い遊歩道は人が並ぶと会話もしづらくなりますし、誰かのライトが視界に入るたびに雰囲気が切れてしまいます。平日の20時台なら、静かな時間を確保しやすいでしょう。
実務的なコツは、待ち合わせを現地にしないこと。真っ暗な住宅街で合流するのは想像以上に難しく、電波状況によっては連絡も取りづらくなります。鵜沼駅で合流して一緒に歩く。この25分の道のりも、実は悪くない時間になります。
デメリットは、写真がほとんど残らないこと。スマホで撮ろうとしても、フラッシュは厳禁、暗所性能にも限界があります。「写真は諦めて記憶に残す夜」と最初から決めておくと、余計なストレスがありません。
一人旅・写真派|三脚を立てるなら時間帯をずらす
一人でじっくり観察したい方には、この場所は相性が良いスポットです。混雑する週末を避け、期間中の平日19時30分に入れば、川の音とホタルの光だけの時間が手に入ります。前述の「発光間隔を数える」楽しみ方も、一人のほうが集中できます。
写真を撮りたい場合は、機材より先にマナーの確認を。遊歩道は狭く、三脚は他の観賞者の動線を塞ぎます。ピークの20時〜20時30分は畳んで手持ちに切り替える、あるいはその時間帯は撮影せず観賞に徹する、といった配慮が必要です。液晶画面の明るさも最低にしておきましょう。
注意点として、単独行動の場合は特に足元のリスクが高まります。転倒しても助けを呼びにくい環境です。誰かに行き先と帰宅予定時刻を伝えておく、モバイルバッテリーを持つ、といった基本の備えは怠らないでください。
ドライブ旅|昼は中山道鵜沼宿、夜はホタルの里
車で岐阜を巡る旅の一日として組むなら、昼間は同じ鵜沼エリアの中山道鵜沼宿を歩くのが自然な流れです。中山道鵜沼宿町屋館は入館無料で、9:00〜17:00の開館。江戸期の宿場の面影を残す町並みを歩いてから、夜はホタル——同じ地名の中で時代と時間が切り替わる構成になります。
木曽川を渡ればすぐ愛知県犬山市で、犬山城までは車で15分ほど。国宝天守を昼に見て、夕方に岐阜側へ戻ってホタル、という県境をまたぐプランも組めます。ただし夜の移動で橋を渡ると渋滞に巻き込まれる時間帯もあるため、余裕を持った時間配分を。

「岐阜旅のついでに犬山城まで足を延ばしたいけれど、国宝天守って結局どのくらい楽しめるの?」——そんな疑問を持って検索している方は多いはずです。犬山城は愛知県犬山…
岐阜県内のホタル名所と比べてどう違う?見頃と駐車場で選ぶ
「大安寺川は駐車場がない」という制約がある以上、条件次第では他のスポットのほうが合う場合があります。岐阜県観光公式サイトが紹介するホタル名所は県内に十数か所。標高差の大きい岐阜だからこそ、見頃が1か月以上ずれるのが面白いところです。
【ぎふ旅手帖調べ】県内8か所の見頃・駐車場・ホタルの種類比較
| スポット | 所在地 | 見頃 | 駐車場 |
|---|---|---|---|
| 大安寺川ホタルの里 | 各務原市 | 6月上旬〜中旬 | なし |
| 板屋川(八王子神社付近) | 岐阜市 | 5月下旬〜6月上旬 | あり(50台) |
| 席田用水沿い | 本巣市 | 5月下旬〜6月上旬 | あり(400台) |
| 関川流域一帯 | 関市 | 5月下旬〜6月上旬 | 要確認 |
| 上之保船山地区 | 関市 | 6月中旬〜下旬 | なし |
| 菅田川 | 下呂市 | 6月中旬〜下旬 | あり(10台) |
| 門和佐川 | 下呂市 | 6月下旬〜7月上旬 | 要確認 |
| 金生山 明星輪寺(ヒメボタル) | 大垣市 | 観賞会の指定日のみ | あり(100台) |
表を眺めると傾向が見えてきます。西濃・中濃の平地寄りのスポットは5月下旬から早く始まり、下呂方面の山間部は6月下旬〜7月上旬まで遅れる。大安寺川はちょうどその中間、6月上旬〜中旬に位置します。つまり県内を移動できるなら、5月下旬から7月上旬まで1か月半にわたってホタルを追いかけられるということです。
駐車場が必要ならこの2か所|本巣・岐阜市という選択肢
小さな子ども連れや、どうしても車移動が前提という方には、駐車場のあるスポットが現実的です。本巣市の席田用水沿いは駐車場400台、岐阜市の板屋川(八王子神社付近)は50台。どちらも見頃は5月下旬〜6月上旬と、大安寺川より少し早めです。
使い分けの目安はシンプルです。「ガイドに質問しながら見たい・雰囲気を重視する」なら大安寺川、「移動の負担を減らしたい」なら席田用水や板屋川。大安寺川の価値は、育てる会のガイドが常駐していることと、川幅の狭さゆえの近さにあります。それを取るか、駐車場の安心を取るかという選択です。
注意点として、駐車場があるスポットでも、車のヘッドライトへの配慮は同じく必要です。到着後は速やかにライトを消し、駐車場内での方向転換は最小限に。どこであれ、光への配慮がホタル観賞の基本マナーになります。
ヒメボタルは別世界|大垣・金生山は「指定日のみ」
同じ岐阜でも、まったく違う体験ができるのが大垣市の金生山です。ここに棲むのは陸生のヒメボタル。大垣市の天然記念物に指定されており、体長は6〜9mmとゲンジボタルの半分ほど。カメラのフラッシュのような短い間隔で強く光るのが特徴で、発光は22時頃から翌3時頃という深夜帯です。
2026年の「金生山姫螢」観賞会は5月30日と6月6日の2日のみ開催され、それ以外の夜間は入山禁止でした。参加には環境保護協力金として1人100円。アルパ奏者のコンサートとヒメボタルの解説・観察がセットになった催しです。「いつでも行ける場所」ではなく、「その日にしか入れない場所」であることは押さえておいてください。
下呂・郡上の遅咲きスポット|温泉旅とセットにする
6月下旬以降にホタルを見たいなら、下呂市方面が有力です。菅田川(下呂市金山町菅田桐洞)は6月中旬〜下旬、門和佐川(下呂市門和佐・火打)は6月下旬〜7月上旬が見頃。標高が上がるぶん水温が低く、成虫の発生が遅れるためです。
下呂まで足を延ばすなら、温泉宿に泊まって夜だけ出かけるという贅沢な組み方ができます。徒歩25分の帰路を歩かずに済み、風呂と食事が待っている——大安寺川では得られない安心感です。デメリットは宿泊費と移動距離ですが、家族旅行として1泊するなら十分に釣り合います。

「下呂温泉に行きたいけれど、電車と車どちらが正解なの?」「名古屋からどれくらい時間がかかるのか、料金はいくらなのか事前に知っておきたい」——旅の計画を立て始める…
まとめ|大安寺川の光を見に行く前に決めておきたい3つのこと
大安寺川ホタルの里は、全長2.3kmの小さな川に約400匹のゲンジボタルが舞う、岐阜県各務原市のビオトープです。1979年発足の「大安寺川ホタルを育てる会」51名が守り、1984年から続くホタル祭りの期間中はガイドが常駐して質問に答えてくれます。2026年の開催期間は5月30日から6月14日でした。
この場所の難しさは、駐車場がないこと、そして見頃が6月上旬〜中旬のわずか2週間ほどしかないことに尽きます。裏を返せば、この2点さえクリアすれば、あとは無料で誰でも歩ける開かれた場所です。ゲンジボタルの成虫の命は2〜3週間。その短い時間に立ち会わせてもらうという気持ちで、ライトを消して静かに立つ——それがこの川での正しい過ごし方だと思います。
最初の一歩は、来シーズンのカレンダーに「6月第1〜第2週の週末」と書き込むこと。そのうえで5月に入ったら各務原市観光協会と岐阜県観光公式サイトのイベントページでその年のホタルまつりの日程を確認し、当日の夕方は鵜沼駅で食事とトイレを済ませて、19時15分に歩き出す。ここまで決めておけば、あとは天気を待つだけです。雨上がりの蒸し暑い無風の夜に当たれば、目の高さを横切る光を、しばらく言葉なく眺めることになるはずです。
※掲載情報は2026年8月時点で確認したものです。開催日程・現地の運用は変更される場合がありますので、最新情報は公式サイトでご確認ください。

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