お盆の夕暮れ、川面をゆっくり下っていく無数の灯り。写真や映像で見たことはあっても、あれが何のために行われているのか、はっきり説明できる人は意外と少ないのではないでしょうか。「きれいな夏のイベント」くらいの認識で終わっているとしたら、少しもったいない話です。
結論から言うと、灯篭流しの意味は「お盆に迎えた先祖や故人の霊を、あの世へ送り返すための送り火」です。門口で焚く送り火と役割はまったく同じで、それを川や海の上でやっているだけ。あの灯りの一つひとつが、誰かの家族を照らす道しるべになっています。
この記事では、灯篭流しという言葉の意味と由来、混同されがちな精霊流しとの違い、そして岐阜県内で今も続いている送り盆の行事までをまとめて解説します。飛騨市神岡町の高原川で毎年8月15日に行われる灯籠流しは、昭和41年から60年近く続いてきた飛騨の夏の締めくくり。旅の日程に一晩組み込むだけで、夏の岐阜の見え方が変わります。
・灯篭流しの意味と由来|なぜ「川」に流すのかという根本の理由
・精霊流しとの違い|長崎の爆竹と飛騨の静寂は何が違うのか
・岐阜で灯篭流しが見られる場所|飛騨市神岡町・郡上八幡の日程とアクセス
・全国4大灯篭流しの費用・時間・受付ルール比較(ぎふ旅手帖調べ)
灯篭流しの意味は「水に浮かべる送り火」|あの世へ帰る道を灯す行事

灯篭流しは、火をともした灯篭をお盆の供え物とともに川や海へ流す行事です。仏教の年中行事である盂蘭盆会(うらぼんえ)の一環で、位置づけとしては送り火の一種。難しく考える必要はなく、「玄関先で焚く送り火を、水の上でやるバージョン」と理解しておけば大きく外れません。
一言でいえば「あの世へ帰る道を照らす灯」だった
灯篭流しの意味を一文で説明するなら、お盆に家へ戻ってきた先祖や故人の霊が、迷わずあの世へ帰れるように道を照らす灯りです。お盆は月遅れ盆であれば8月13日の夕方に迎え火を焚いて霊を迎え、8月16日の夕方に送り火を焚いて見送ります。2026年は迎え火が8月13日(木)、送り火が8月16日(日)にあたります。
迎え火は「ここがあなたの家ですよ」と知らせる目印の火、送り火は「また来年」と見送る火。灯篭流しはこの後者を担っています。地域によって実施日は8月15日だったり16日だったり、飛騨市神岡町のように送り盆の15日に行うところもあり、日付そのものに厳密な決まりはありません。
旅行者として参加する場合、この意味を知っているかどうかで見え方がまるで変わります。「川に灯りが浮かぶきれいなイベント」として眺めるのと、「今この瞬間、誰かの祖父母を送り出している時間なのだ」と理解して立ち会うのとでは、静けさの重みが違うのです。カップル旅行や家族旅行で訪れるなら、灯篭を流し終えるまでの30分ほどはスマホを置いて、川面だけを見ていてほしいところです。
ただし注意点として、灯篭流しは「お祭り」ではなく「法要」です。会場によっては僧侶の読経が入り、参列者は手を合わせています。歓声を上げたり、河原で飲食を始めたりするのはふさわしくありません。花火大会と同日開催される地域もありますが、灯篭流しの時間帯だけは空気が変わると覚えておいてください。
「灯籠」と「灯篭」で漢字が違うのはなぜ?
検索していると「灯篭流し」と「灯籠流し」の両方が出てきて戸惑いますが、意味に違いはありません。どちらも正しい表記です。「籠」が常用漢字として定められており、「篭」は2000年に許容字体として認められた字体だからです。
語源としては、「灯(ひ)」の「籠(かご)」、つまり「火を収める籠」という成り立ちを持ちます。竹や木で編んだ籠に紙を貼り、中に火を入れる——道具そのものの姿がそのまま名前になっているわけです。この語源を知ると、なぜ紙製が基本なのかも腑に落ちます。
使い分けとしては、日本庭園や寺社にある石造りの大型のものを「灯籠」、紙や布でできた手に持てる小型のものを「灯篭」と書き分ける慣習があります。ただしこれは絶対のルールではなく、実際には広島は「とうろう流し」とひらがな、福井の永平寺町は「大燈籠ながし」と旧字を使うなど、主催者ごとにばらばらです。
調べものをするときの実用的なコツとして、目当ての行事が見つからないときは「灯篭流し」「灯籠流し」「とうろう流し」「燈籠」の4パターンで検索し直してみてください。自治体の公式ページが片方の表記しか使っておらず、それだけで検索から漏れているケースがよくあります。飛騨市神岡町の行事も公式表記は「灯籠流し」です。
岐阜県観光公式サイト「岐阜の旅ガイド」では飛騨市神岡町の行事を「灯籠流し」と表記しています。一方で郡上八幡仏教会は「灯篭流し」表記。同じ岐阜県内でも書き方が割れているので、現地の告知看板やチラシを探すときは両方の字を頭に入れておくと迷いません。
なぜ川や海に流すのか|水は「あの世との境目」だった
そもそもなぜ、山でも空でもなく水に流すのか。これは日本の他界観に理由があります。古来、水の流れは此岸(この世)と彼岸(あの世)をつなぐ通路だと考えられてきました。川を下れば海へ出て、海の彼方には常世の国がある——その道筋に灯りを浮かべる、というのが灯篭流しの発想です。
この考え方は灯篭流しに限りません。ひな祭りの原型である流し雛も、穢れを人形に移して川へ流す行事でした。水には「運び去る」「清める」という二つの働きが期待されてきたわけです。灯篭流しは、そこに「照らす」という三つ目の役割が加わった形と言えます。
実際に会場へ行くとよくわかるのが、流す川の選ばれ方です。飛騨市神岡町の灯籠流しは高原川、京都の嵐山灯篭流しは桂川、広島のとうろう流しは元安川。いずれも街の中心を貫き、住民が日常的に目にしている川です。旅先で「この街はどの川を大切にしているのか」を知りたいとき、送り盆にどこで灯篭が流されるかを調べると一発でわかります。
一方で注意しておきたいのは、水の上での行事だけに天候の影響を強く受けることです。増水すれば中止、風が強ければ灯りが消える。特に飛騨地方は8月でも夕立が多く、河原に降りる階段が濡れて滑りやすくなります。サンダルではなく、足首まで覆えるスニーカーで行くのが無難です。
灯篭に書くのは名前?それとも願い事?
会場で灯篭を受け取ると、まず「何を書けばいいのか」で手が止まります。基本は故人の名前、戒名、冥福を祈る言葉、そして故人との思い出です。願い事を書く欄がある行事もありますが、それは主催者が明示的に用意している場合に限られます。
具体例がわかりやすいのは福井県の永平寺町大燈籠ながしで、ここは「供養燈籠」と「願い燈籠」の2種類が明確に分かれています。供養燈籠には戒名や「〇〇家先祖代々」と書き、願い燈籠には自分の願いを書く。料金も供養燈籠が2,000円、願い燈籠が1,500円と別建てになっています。書く内容で迷いたくないなら、こうした区分がある行事を選ぶのが確実です。
書く道具は会場に筆ペンやマジックが用意されていることがほとんどなので、手ぶらで行って問題ありません。ただし夕方以降は受付テントが混み合い、書く場所の順番待ちが発生します。一人旅で静かに向き合いたい人ほど、受付開始直後の明るい時間帯に済ませてしまい、点灯までの時間を河原で過ごすという段取りをおすすめします。
注意したいのは、宗派や故人の信仰にそぐわない言葉を書いてしまうケースです。迷ったら難しい表現は避け、「ありがとう」「また来年」といった素直な言葉で十分。会場の係員に聞けば書き方の例を教えてくれますし、それが最も確実です。
起源は中国の中元節にあった|灯りを流す文化がたどった道
この行事がいつ、どこで始まったのか。実は日本発祥ではなく、大陸から渡ってきた風習が土着の他界観と結びついて根づいたものだと考えられています。ここでは仏教行事としての土台から、飛騨に根づくまでの流れを追います。
お盆の語源は「逆さ吊り」だった|目連尊者の伝説
灯篭流しを支えているのはお盆、すなわち盂蘭盆会という仏教行事です。この「盂蘭盆」という言葉は、古代インドのサンスクリット語「ウラバンナ」に由来し、意味は「逆さ吊り」。かなり強烈な語感ですが、これは死後に苦しみの世界へ落ちた者の苦痛を表した言葉です。
由来となっているのは『盂蘭盆経』に説かれる目連尊者の伝説です。神通力を得た目連が亡き母の行方を探したところ、母は餓鬼道に落ちて逆さ吊りの苦しみを受けていた。釈迦の教えに従い、夏の修行明けに僧たちへ供養を捧げたことで母は救われた——この供養が、お盆という行事の原型になったとされています。
つまりお盆は本来、亡くなった人を「もてなす」だけでなく、「苦しみから救い出す」ための行事でした。灯篭流しが単なる送別ではなく、道を照らす灯りという形をとっているのは、この救済のイメージが下敷きにあるからです。歴史・文化に興味のある旅行者にとっては、ここを押さえておくと寺社めぐりの解像度が一段上がります。
ただし現代の会場では、こうした教義的な背景が説明されることはほとんどありません。事前に知っているかどうかで受け取り方が変わるので、家族連れで参加するなら道中の車内で子どもに話しておくと、河原での時間が学びに変わります。
中国の蓮華燈が海を渡った|放活燈・放水燈という呼び名
灯篭流しの直接の起源については、中国発祥とする説が有力です。中国の中元節では祖霊を迎えて供養し、色紙で作った「蓮華燈」に灯をともして流す風習がありました。この蓮の花をかたどった灯りが、灯篭流しの原型だと考えられています。
同じ文化圏の中でも呼び名は地域ごとに異なり、華南地方では「放活燈」、東南アジアでは「放水燈」と呼ばれてきました。さらに広く見れば、タイのローイクラトンは陰暦12月の満月の夜に灯りを水に浮かべる行事ですし、インドのワーラーナシーではガンジス川で毎晩プージャーが行われています。水に灯りを流して祈るという行為は、アジア全域に共通する文化なのです。
日本でも海外でも同じ形が見られるという事実は、旅の話題としてよく効きます。ハワイのアラモアナビーチではメモリアルデーに、ブラジルのレジストロ市では11月2日の死者の日に灯籠流しが行われており、日系移民が持ち込んだ文化が現地に定着した例として知られています。
注意点として、こうした海外の行事は宗教的背景も日程も日本と異なります。「日本の灯篭流しが世界に広まった」と単純化して語ると事実からずれてしまうので、あくまで「水に灯りを流す文化が各地に並行して存在する」と捉えておくのが正確です。
📜 歴史メモ
灯篭流しの起源は中国の中元節にあるとされ、色紙で作った「蓮華燈」を流す風習が日本に伝わりました。華南地方では「放活燈」、東南アジアでは「放水燈」と呼ばれ、タイのローイクラトンやインドのプージャーも同じ系譜にあります。日本ではこれがお盆の送り火と結びつき、独自の形に変化しました。
戦後に生まれたもう一つの灯篭流し|広島の追悼
灯篭流しには、お盆の送り火とは別の系譜があります。第二次世界大戦後、戦死者や犠牲者の霊を弔うために新たに始められたものです。その代表が広島のとうろう流しでした。
広島のとうろう流しは、原爆で親族や知人を失った遺族が追善と供養のため、手作りの灯ろうを川に流したのが始まりとされています。焼け跡にバラック建ての商店がようやく建ち始めた時期、まだ復興の途上にあった街で自然発生的に生まれた行為が、現在のピースメッセージとうろう流しへとつながりました。
現在は毎年8月6日、平和記念公園の元安川で開催され、原爆ドームの対岸に流灯場が設けられます。実行委員会は広島市中央部商店街振興組合連合会。地元商店街が担い手であるという点にも、この行事が街の暮らしから生まれたことが表れています。
この系譜を知っておくと、「灯篭流し=お盆」という理解だけでは説明がつかない日程の行事にも納得がいきます。8月6日という日付は、お盆とは何の関係もありません。行事の日程が地域ごとにばらばらなのは、それぞれに固有の記憶が刻まれているからです。
昭和41年に始まった飛騨・神岡の灯籠流し
岐阜県内で最も知られている灯篭流しが、飛騨市神岡町の灯籠流しです。昭和41年(1966年)に神岡町船津の曹洞宗・円城寺で始められ、以来60年近くにわたって続けられてきました。全国的な行事と比べれば新しい部類ですが、地域に定着した年月としては十分に長い歴史を持ちます。
毎年8月15日、送り盆の日に、神岡町市街地を流れる高原川へ灯籠を流します。時間は18時30分から19時30分の1時間。死者の弔いと、お盆に迎えた先祖の霊を見送るという意味が込められています。会場は円城寺と、高原川の西里橋下の河原です。
神岡という土地は、かつて鉱山で栄えた町です。山あいの狭い平地に家々が肩を寄せ合い、その真ん中を高原川が流れています。日没後の1時間、その川面だけが灯りで埋まる光景は、鉱山町の暮らしと川の関係をそのまま形にしたようなものです。ドライブ旅で奥飛騨方面へ向かう人にとっては、宿に入る前に立ち寄れる時間帯なのも都合がいいところです。
注意点は、この日が「ひだ神岡夏まつり」の最終日にあたることです。前々日から花火大会を含む祭りが続いており、町なかは通常の8月15日より人出が多くなります。宿泊を伴う場合、飛騨市内や奥飛騨温泉郷の宿は早めに押さえておかないと空きが出ません。

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精霊流しと何が違う?混同されやすい3つの行事を整理する

「灯篭流しと精霊流しは同じもの」と説明されることもあれば、「まったく別物」と書かれることもあります。この混乱は、両者が目的を共有しながら形式がまるで異なるために起きています。ここで整理しておきましょう。
長崎の精霊流しは「船」が主役だった
精霊流し(しょうろうながし)は、長崎県を中心に九州地方で行われる行事です。藁や木、板でできた船を盆提灯で飾り、供物を乗せて故人をあの世へ送り出します。灯篭流しが「灯り一つ」を流すのに対し、精霊流しは「船一艘」を曳く。規模がまるで違います。
その年に亡くなった人がいる家が船を作り、遺族が街なかを曳いて練り歩くのが基本の形です。船の大きさは家によってさまざまで、数メートルに及ぶものも珍しくありません。長崎県のほか、熊本県の一部や佐賀市でも行われています。
参加のしかたも決定的に違います。灯篭流しは誰でも灯篭を買って参加できますが、精霊流しは基本的に遺族の行事です。旅行者は沿道から見送る立場になります。この違いを知らずに「参加したい」と申し出ると、場にそぐわない依頼になってしまうので気をつけてください。
百科事典などでも両者は別項目として扱われており、「呼び名が違うだけ」という説明は正確ではありません。目的(お盆の霊送り)は同じでも、形式・担い手・参加可否のすべてが異なる別の行事だと理解しておくのが実態に近いところです。
音の違いが決定的|静寂の灯篭流し、爆竹の精霊流し
現地で最も驚くのが音の違いです。灯篭流しの会場は基本的に静かで、聞こえるのは読経と川の流れる音だけ。一方の精霊流しは、道中で大量の爆竹が鳴らされ、鉦の音が響き渡ります。同じ「霊を送る」行事とは思えないほど対照的です。
精霊流しで爆竹を鳴らすのは、魔除けの意味があるとされています。中国の影響が強い長崎ならではの文化で、静かに見送るという日本的な感覚とは別の系譜が入り込んでいます。歌の印象から静かで叙情的な行事を想像して現地へ行き、その音量に驚いたという話は昔から絶えません。
この違いは、旅の計画を立てるうえで実用的な判断材料になります。小さな子どもを連れて行くなら、爆竹の音は相当な負担になります。逆に、静かに手を合わせる時間を求めているなら灯篭流しのほうが合っています。飛騨市神岡町の灯籠流しは河原で静かに進行するため、後者を求める人向きです。
注意点として、灯篭流しでも花火大会と同日・同会場で行われる場合は事情が変わります。飛騨市神岡町では8月13日・14日に納涼花火大会があり、15日が灯籠流し。日付が分かれているので静かな夜を選べますが、地域によっては同じ晩に両方を行うところもあるため、事前に日程を確認しておくと想像とのズレを防げます。
五山送り火とは何が同じで何が違うのか
京都の五山送り火も、灯篭流しと同じお盆の送り火です。違いは「火をどこに置くか」の一点。五山送り火は山の斜面で大きな火を焚き、灯篭流しは川面に小さな灯りを浮かべます。どちらも霊を送る目印という役割は共通しています。
興味深いのは、京都ではこの二つが同じ夜に共演することです。嵐山灯篭流しは毎年8月16日の19時から21時に行われ、五山送り火の「鳥居形」が山肌に浮かび上がる時間と重なります。桂川を下る灯篭の列と、その背景の山に灯る鳥居——一晩で両方の送り火が見られる、全国的にも珍しい構図です。
この共演を狙って訪れる人は多く、嵐山中ノ島公園周辺は当日大変な混雑になります。阪急嵐山線「嵐山」駅や嵐電嵐山本線「嵐山」駅からは徒歩6分、JR嵯峨野線「嵯峨嵐山」駅からは徒歩15分の距離ですが、帰りの電車は積み残しが出るほど混みます。時間に余裕のないスケジュールを組むと消化不良になります。
整理すると、「送り火」という大きな枠の中に、門口で焚く送り火・山で焚く五山送り火・水に流す灯篭流し・船を曳く精霊流しが並んでいる、という関係です。下の表で見比べてみてください。
| 比較項目 | 灯篭流し | 精霊流し | 五山送り火 |
|---|---|---|---|
| 主な地域 | 全国 | 長崎・熊本一部・佐賀 | 京都市 |
| 流す・焚くもの | 紙製の灯篭 | 藁や板で作った船 | 山の斜面の大文字 |
| 旅行者の参加 | 灯篭を買えば可 | 見学のみ(遺族の行事) | 見学のみ |
| 会場の音 | 読経と川音(静か) | 爆竹と鉦(大音量) | 静か |
岐阜で「精霊流し」と言っても通じにくい理由
岐阜県内で「精霊流しを見たい」と観光案内所で尋ねても、多くの場合は話が噛み合いません。精霊流しは九州地方の行事であり、岐阜には根づいていないからです。県内で行われているのは灯篭流し・灯籠流しであり、呼び方を変えるだけで会話がスムーズになります。
実際、岐阜県観光公式サイト「岐阜の旅ガイド」に掲載されている飛騨市神岡町の行事も、名称は「灯籠流し」です。郡上八幡仏教会が営むものは「灯篭流し」。県内のどの資料を当たっても「精霊流し」という表記には行き当たりません。
検索するときも同様で、「岐阜 精霊流し」ではほとんど有用な情報が出てきません。「岐阜 灯籠流し」「飛騨市 灯籠流し」「郡上八幡 灯篭流し」のように、地名と正しい表記を組み合わせるのが近道です。地域行事は自治体や寺院が個別に告知しているため、大手のイベント情報サイトには載らないことも多くあります。
注意しておきたいのは、こうした小規模な地域行事は開催情報の更新が遅いことです。前年の告知ページがそのまま残っていて、当年の日程が出ていないというケースは珍しくありません。確実を期すなら、開催予定日の1週間前を目安に主催の寺院や市の観光担当へ直接電話するのが最も速い方法です。
岐阜で灯篭流しに立ち会える場所|飛騨と郡上、二つの送り盆
岐阜県内で旅行者が参加・見学しやすい灯篭流しは、飛騨市神岡町と郡上市八幡町の二か所です。どちらも川沿いの町で、送り盆の夜だけ町の表情が変わります。それぞれの基本情報とアクセスを押さえておきましょう。
円城寺から始まった神岡の灯籠流し|8月15日18時30分
岐阜県で灯篭流しを見るなら、まず候補に挙がるのが飛騨市神岡町の灯籠流しです。会場は曹洞宗・円城寺と、高原川の西里橋下の河原。開催は毎年8月15日、時間は18時30分から19時30分の1時間です。
車でのアクセスは、東海北陸道の飛騨清見ICから約60分、高山ICからは約50分。飛騨地方は完全な車社会なので、高山や下呂を拠点にしている人は車で向かうことになります。公共交通の場合はJR飛騨古川駅に隣接する古川駅前バス停から濃飛バス神岡営業所行きに乗車し、約45分の西里バス停で下車、そこから徒歩10分です。
駐車場は飛騨市神岡振興事務所の駐車場を利用します。ここから円城寺までは徒歩約5分。河原に近い路上に停めたくなりますが、当日は見物客と地元の参列者で人通りが増えるため、指定された駐車場に入れて歩くのが結果的に早くなります。
注意点は日没時刻との関係です。8月中旬の飛騨は19時前には暗くなり、河原へ降りる道には街灯が少ない区間があります。スマホのライトでは足元しか照らせないので、小型の懐中電灯を車に積んでおくと安心です。一人旅で三脚を立てて撮影したい人も、暗くなる前に場所を決めておくと動きやすくなります。
| 所在地 | 〒506-1161 岐阜県飛騨市神岡町船津1129 |
| 電話番号 | 0578-82-0306 |
| 開催日時 | 毎年8月15日 18:30〜19:30 |
| 会場 | 円城寺および高原川・西里橋下の河原 |
| 駐車場 | 飛騨市神岡振興事務所駐車場(円城寺まで徒歩約5分) |
| アクセス | 東海北陸道 飛騨清見ICより60分/高山ICより50分/古川駅前バス停から濃飛バス約45分・西里バス停下車徒歩10分 |
前夜の花火とセットにする|ひだ神岡夏まつりの組み立て方
神岡の灯籠流しを旅程に組み込むなら、前日までの「ひだ神岡夏まつり」とセットにするのが効率的です。2026年は8月13日(木)・14日(金)の開催で、雨天の場合は8月15日に順延されます。メインの納涼花火大会は19時30分から20時までの30分間、ミュージックスターマイン全5曲分が打ち上げられます。
会場は高原川の西里橋周辺の河川沿い。灯籠流しと同じ川、ほぼ同じ場所です。つまり同じ河原で、14日は花火の轟音に包まれ、15日は読経と水音だけになる。この落差を2晩続けて味わえるのが神岡ならではの体験になります。
駐車場は飛騨市神岡振興事務所駐車場または夕陽ヶ丘市民駐車場を利用します。ここで一つ重要なのが、大島駐車場は使用不可という点です。カーナビや古い情報を頼りにここへ向かうと、たどり着いてから停められず引き返すことになります。
2泊するならドライブ旅として組みやすい行程です。1日目は奥飛騨温泉郷や新穂高ロープウェイで日中を過ごし、夕方に神岡入りして花火。2日目は飛騨古川や高山の町並みを歩き、夕方に再び神岡へ戻って灯籠流し。カップルや夫婦での旅なら、この2晩の対比がそのまま旅の軸になります。
| 会場 | 岐阜県飛騨市神岡町 高原川西里橋周辺の河川沿い |
| 開催日 | 2026年8月13日(木)・14日(金)※雨天の場合は8月15日 |
| 花火の時間 | 19:30〜20:00予定(ミュージックスターマイン全5曲分) |
| 駐車場 | 飛騨市神岡振興事務所駐車場/夕陽ヶ丘市民駐車場(大島駐車場は使用不可) |
| 問い合わせ | 0577-73-2111(飛騨市役所まちづくり観光課 9:00〜17:00・土日祝年末年始休) |
| 公式サイト | 飛騨市公式観光サイト「飛騨の旅」 |
郡上八幡は8月17日|おどりの熱狂が静けさに変わる夜
もう一つの岐阜の灯篭流しが、郡上市八幡町で行われるものです。郡上八幡仏教会が営む送り火の行事で、例年8月17日に実施されています。灯篭流しが送り火の一種であり、お盆に戻ってきた先祖や故人の霊をあの世へ送るための行事であることは、同会も明確に説明しています。
郡上八幡といえば郡上おどり。8月13日から16日にかけての徹夜おどりでは、町なかが朝まで下駄の音で埋まります。その熱狂が終わった翌日に灯篭流しが来る、という並びが郡上の送り盆です。数万人が去った町に静けさが戻り、水の音だけが残る——この温度差が、郡上八幡の8月17日を特別な夜にしています。
アクセスは東海北陸自動車道の郡上八幡ICから車で約5分と良好です。城下町の中心部は道が狭く一方通行も多いため、町なかの有料駐車場に停めて歩くのが基本になります。徹夜おどりの直後という時期柄、宿は早めに動かないと確保が難しくなります。
注意点として、この行事は開催時間や会場の詳細が公式サイトに明記されていません。日程が例年8月17日であることは確認できるものの、時間と正確な流し場所は現地に問い合わせる必要があります。郡上八幡へ向かう予定なら、事前に郡上市の観光担当か郡上八幡仏教会へ確認しておいてください。
| 所在地 | 岐阜県郡上市八幡町島谷520-1(郡上八幡仏教会) |
| 開催日 | 例年8月17日(開催時間・会場の詳細は要確認) |
| アクセス | 東海北陸自動車道 郡上八幡ICより車で約5分 |
| 公式サイト | 郡上八幡仏教会 |

「郡上八幡って半日で回れるの?」「車で行った方がいい?それとも電車?」——郡上八幡への日帰り旅を計画すると、まずこの疑問にぶつかります。清流と踊りで知られる城下…
失敗しやすいのは駐車場|当日に慌てないための段取り
灯篭流しで最も多い失敗が、駐車場に関するものです。よくあるのが「大島駐車場に停めるつもりで神岡へ向かったが使用不可で、暗い町なかを彷徨って点灯に間に合わなかった」というパターン。原因は前年までの情報や地図アプリを鵜呑みにしたことにあります。
対策はシンプルで、当年の公式告知で駐車場名を確認し、その名称でナビに入力してから出発することです。飛騨市神岡町であれば飛騨市神岡振興事務所駐車場と夕陽ヶ丘市民駐車場が指定されています。灯籠流し単独の日であれば神岡振興事務所駐車場が基本になります。
もう一つの対策が、到着時刻の前倒しです。18時30分開始の行事に18時20分に着こうとすると、駐車・徒歩5分・河原まで降りる時間で確実に間に合いません。17時台に現地入りして駐車を済ませ、町を歩いてから河原へ向かう。これだけで当日の焦りがなくなります。
家族連れの場合はさらに余裕を見てください。子どもがトイレに行きたがる、河原の階段で時間がかかるといった要素が必ず入ります。飛騨地方の夏の夕方は日中の暑さが残る一方で、日が落ちると川沿いは急に冷えます。薄手の羽織るものを一枚、車に積んでおくと快適さが変わります。
ひだ神岡夏まつりでは大島駐車場が使用不可と明示されています。カーナビの登録地点や過去の記事を頼りに向かうと、現地で停められず引き返すことになります。利用できるのは飛騨市神岡振興事務所駐車場と夕陽ヶ丘市民駐車場の2か所。出発前に駐車場名で検索して位置を確認しておいてください。
全国の名高い灯篭流し4選|費用も流し方も驚くほど違う

灯篭流しは全国各地で行われていますが、規模も費用も参加方法もばらばらです。ここでは代表的な4か所を取り上げ、何がどう違うのかを具体的な数字で見ていきます。旅先で参加を考えるときの判断材料にしてください。
京都・嵐山|五山送り火「鳥居形」との共演
嵐山灯篭流しは、京都市右京区の嵐山中ノ島公園(京都府立嵐山公園)で毎年8月16日に行われます。時間は19時から21時までで、この時間帯に法要が営まれます。主催は嵯峨佛徒連盟です。
最大の特徴が、五山送り火の「鳥居形」との共演です。桂川の川面を流れていく灯篭の列と、その奥の山肌に浮かぶ鳥居の火。二種類の送り火が一つの視界に収まる光景は、他ではまず見られません。京都のお盆の締めくくりとして、毎年多くの人が集まります。
アクセスは公共交通が圧倒的に有利です。阪急嵐山線「嵐山」駅と嵐電嵐山本線「嵐山」駅から徒歩6分、JR嵯峨野線「嵯峨嵐山」駅から徒歩15分、市バス「嵐山」下車。当日は周辺道路の混雑が激しく、車で近づくのは現実的ではありません。問い合わせ先は嵯峨佛徒連盟(080-5307-1060)です。
注意点は帰路です。21時の終了と同時に大量の人が駅へ流れ込むため、電車は積み残しが出るほど混みます。翌日の予定を詰め込んでいると疲労が残るので、京都市内に宿を取り、翌朝はゆっくり出るくらいの余裕を見ておくのが賢明です。
広島・元安川|1個1,000円のとうろうに託す平和の願い
ピースメッセージとうろう流しは、毎年8月6日に平和記念公園の元安川で行われます。2026年は18時から21時30分まで、点灯式は17時30分から。会場は原爆ドームの対岸に設けられる流灯場です。
とうろうは1個1,000円(税込・現金のみ)で、当日7時から20時30分まで会場内の受付テント5か所で購入できます。流し方は2種類あり、自分で組み立てて手ずから流す「手流し流灯」と、主催者が流灯船から流す「委託流灯」が選べます。遠方から現地に来られない人向けに、オンラインとうろう流しの仕組みも用意されています。
環境面のルールが明確なのもこの行事の特徴です。使えるのは紙製のとうろうのみで、プラスチックや発泡スチロールは禁止。そして一度流したとうろうは回収できません。だからこそ、何を書くかを決めてから会場に向かうことをおすすめします。主催はとうろう流し実行委員会(広島市中央部商店街振興組合連合会)です。
注意点として、8月6日は平和記念式典の日でもあり、市内全体が特別な一日になります。宿は前年から埋まり始め、直前では確保が困難です。参加を決めたら、まず宿から押さえてください。
福井・永平寺町|九頭竜川に約1万個の大燈籠
永平寺町大燈籠ながしは、九頭竜川および永平寺河川公園(福井県吉田郡永平寺町谷口)で毎年8月下旬に開催されます。2026年は8月22日(土)の開催で、第38回を数えます。曹洞宗大本山永平寺の僧侶と地元住民が一堂に会し、約1万個の燈籠を川に流すという圧巻の規模です。
燈籠は2種類あり、供養燈籠が2,000円、願い燈籠が1,500円。受付時間も分かれていて、供養燈籠は18時まで、願い燈籠は19時30分までとなっています。桟敷席は2,500円で用意されています。書く内容で迷いたくない人にとって、この2種類制はわかりやすい仕組みです。
供養燈籠には戒名や「〇〇家先祖代々」と書くのが一般的です。永平寺の僧侶による読経のもと1万個の灯りが九頭竜川を埋める光景は、規模という点で全国屈指と言っていいでしょう。岐阜からは東海北陸道と北陸道を乗り継ぐルートになり、ドライブ旅の目的地として組み込めます。
注意点は受付の締切時刻です。供養燈籠を流したいのに18時を過ぎて到着してしまうと、願い燈籠しか選べなくなります。目的をはっきり決めているなら、17時までには会場に入っておく計算で動いてください。
山梨・富士河口湖|灯籠は無料、湖面に浮かぶ灯り
富士河口湖灯籠流しは、8月16日の16時から20時まで、大石公園特設会場(山梨県南都留郡富士河口湖町大石)で行われます。灯籠受付は19時で終了します。ここの大きな特徴は、灯籠が無料であることです。
歴史は比較的新しく、昭和56年に真如苑が河口湖で灯籠流しを開催したのが始まりです。平成19年からは河口湖灯籠流し実行委員会が主催する形式に移行し、現在に至ります。川ではなく湖に浮かべる形なので、灯りが流れ去らずゆっくり漂うのも他とは違う点です。
費用がかからないため、家族全員分の灯籠を用意しやすいのも実用的な魅力です。子ども一人ひとりに書かせて、家族で並んで浮かべる——そういう時間の作り方ができます。会場内ではドローンやラジコンなど無人飛行機の持ち込み・操作・撮影は控えるよう案内されています。
注意点は受付終了の19時です。16時開始と聞くと余裕がありそうに感じますが、日没前後に到着すると受付に間に合わない可能性があります。灯りが最も美しく見えるのは日が落ちてからなので、18時前に受付を済ませ、暗くなるのを待つ流れが理想的です。
| 比較項目 | 飛騨市神岡町 | 京都・嵐山 | 広島・元安川 | 福井・永平寺町 | 山梨・河口湖 |
|---|---|---|---|---|---|
| 開催日 | 8月15日 | 8月16日 | 8月6日 | 8月22日(2026年) | 8月16日 |
| 時間 | 18:30〜19:30 | 19:00〜21:00 | 18:00〜21:30 | 受付18:00/19:30まで | 16:00〜20:00 |
| 灯篭の費用 | 要確認 | 要確認 | 1個1,000円 | 供養2,000円/願い1,500円 | 無料 |
| 流す場所 | 高原川 | 桂川 | 元安川 | 九頭竜川 | 河口湖 |
| 見どころ | 昭和41年からの送り盆 | 五山送り火と共演 | 原爆ドーム対岸 | 約1万個の燈籠 | 湖に漂う灯り |
※ぎふ旅手帖調べ。各行事の公式・自治体公表情報をもとに作成(2026年8月時点)。飛騨市神岡町と嵐山は灯篭の費用が公表されていないため「要確認」としています。
灯篭流しの意味を知ったら、次は参加してみる|当日の流れと準備
意味と背景がわかると、次に出てくるのが「自分も流してみたい」という気持ちです。灯篭流しは遺族でなければ参加できない行事ではなく、多くの会場で誰でも灯篭を求めて流すことができます。当日の流れを具体的に見ておきましょう。
会場での手順は4ステップ|迷うところは意外と少ない
手順はどの会場もおおむね共通しています。①受付テントで灯篭を求める、②備え付けの筆ペンやマジックで名前やメッセージを書く、③係員の案内に従って灯篭を組み立てる、④指定された流灯場から水に浮かべる。これだけです。
広島のとうろう流しを例に取ると、受付は当日7時から20時30分まで、会場内の5か所のテントで購入できます。とうろうは1個1,000円で、支払いは現金のみ。組み立てから流すところまで自分でやる「手流し流灯」と、主催者が流灯船から流す「委託流灯」が選べます。
時間の使い方としては、明るいうちに受付と記入を済ませてしまうのがおすすめです。日が落ちてからだと文字が書きにくく、テントも混雑します。一人旅で静かに過ごしたい人は、受付を早めに終えて河原に腰を下ろし、周囲が暗くなっていく過程を眺める時間をとってみてください。
注意したいのは、会場によって支払い方法が限られることです。広島のように現金のみという行事もあり、キャッシュレス決済に慣れていると足元をすくわれます。千円札を数枚、現金で用意しておくと確実です。
手流しと委託|現地に行けなくても参加できる
参加方法には、自分で流す形と、主催者に託す形の2通りがあります。広島の例では前者が「手流し流灯」、後者が「委託流灯」と呼ばれ、申し込みの段階で選べる仕組みになっています。
委託流灯が用意されている理由は明確で、体調や距離の事情で現地の河原まで降りられない人がいるからです。夜間の河原は足元が不安定で、高齢の参列者には負担が大きい。そうした人の思いを、主催者が船から代わりに流します。広島ではさらにオンラインとうろう流しも実施されており、遠方からでも参加できる道が開かれています。
この仕組みを知っておくと、親を連れて行くときの選択肢が広がります。「河原まで降りられないから諦める」ではなく、「委託で申し込んで、橋の上から灯りを見送る」という形が成り立つからです。灯篭流しは体力勝負の行事ではありません。
注意点として、委託流灯やオンライン参加は事前申し込みが必要な場合があります。当日受付だけを想定していると間に合わないので、この形での参加を考えているなら開催の数週間前には主催者の案内を確認しておいてください。
服装は喪服でなくていい|暗い河原で必要になるもの
服装で迷う人が多いのですが、参列者として参加する分には平服で構いません。喪服で行く必要はありませんし、実際に会場に集まる人の多くは普段着です。ただし法要の場なので、露出の多い服装や派手な柄物は避けたほうが場になじみます。
優先すべきは足元です。河原に降りる石段は濡れていることが多く、砂利の上を歩く場面もあります。ビーチサンダルやヒールのある靴は危険で、スニーカーが最適解です。飛騨市神岡町の会場は高原川の河原なので、なおさら足元が重要になります。
持ち物として役立つのが、小型の懐中電灯、虫よけ、薄手の羽織るもの、そして現金です。8月中旬の飛騨は日中30度近くまで上がっても、日没後の川沿いは体感でぐっと下がります。半袖1枚だと1時間の見学中に冷えるので、カーディガンやパーカーを一枚持っておくと快適です。
注意点は撮影マナーです。灯篭を流している人は故人と向き合っている最中で、そこにレンズを向けるのは失礼にあたります。撮るなら川面と灯りだけにとどめ、参列者の顔が入らない角度を選んでください。フラッシュも当然避けるべきです。
子ども連れで行くなら、河原に着く前に伝えておきたいこと
家族旅行で灯篭流しに参加するなら、現地に着く前の車内で行事の意味を話しておくのがおすすめです。「亡くなった人が帰る道を照らす灯り」という一文だけでも、子どもの受け止め方はまるで変わります。何も知らないまま連れて行くと、単なる夜のイベントになってしまいます。
灯篭が無料の会場なら、子ども一人ひとりに書かせてあげてください。富士河口湖灯籠流しは灯籠が無料なので、人数分を用意しても費用の心配がありません。曾祖父母の名前を書く、絵を描く、それだけで記憶に残る夏になります。
時間帯の設計も大切です。灯篭流しは日没後が本番なので、小さな子どもにとっては眠くなる時間帯にあたります。飛騨市神岡町の灯籠流しは18時30分から19時30分と比較的早い時間に終わるので、子連れには組み込みやすい行事です。終了後すぐ宿に入れる距離に泊まっておくと無理がありません。
注意点として、河原は暗く足場が悪いため、子どもから目を離せません。人出のある年は迷子のリスクもあります。手をつないで動く、集合場所を先に決めておくといった基本を、河原に降りる前に確認しておいてください。
川に流して大丈夫?環境と安全をめぐる、語られにくい現実
美しい行事である一方、灯篭流しには現実的な課題もあります。川へ物を流すという行為は、環境保全の観点から避けて通れない論点を抱えてきました。この背景を知っておくと、会場のルールがなぜ厳しいのかも腑に落ちます。
1972年の琵琶湖、1973年の巴川|中止になった歴史
1970年代、海や川の汚染が社会問題として大きく取り上げられるようになりました。その流れの中で、灯篭流しも見直しの対象になります。1972年には琵琶湖で、1973年には静岡市の巴川で灯籠流しが中止されました。
理由は単純で、流した灯篭がそのまま水中に残るからです。当時は素材への配慮も回収の仕組みも整っておらず、大量の灯篭が下流に滞留する事態が起きていました。伝統行事であっても、環境負荷が可視化されれば継続は難しくなります。
この歴史は、現在の各会場のルールを理解する鍵になります。広島のとうろう流しで紙製のとうろうのみが許可され、プラスチックや発泡スチロールが禁止されているのは、まさにこの経験の積み重ねの結果です。ルールが厳しいのではなく、行事を存続させるために必要だったのです。
注意しておきたいのは、今も中止のリスクがゼロではないという点です。増水や汚染、担い手の減少など、小規模な地域行事ほど継続が危うくなります。「毎年やっているから今年もある」という前提で予定を組まず、その年の告知を確認してから動いてください。
今は「流して回収する」が主流になっている
現在の灯篭流しは、環境負荷を抑えるための工夫を重ねています。主なものは、流す数量の制限、環境配慮素材の使用、下流での回収作業、河川敷や海岸での集中回収です。素材については、脱プラスチック化のほか、もなかの皮を使うという発想まで生まれています。
つまり多くの会場では、灯篭は「流しっぱなし」ではありません。下流に回収地点を設け、スタッフが引き上げる体制が組まれています。参加者からは見えにくい部分ですが、この裏方の作業があるからこそ行事が続いているわけです。
一方で、広島のとうろう流しのように「一度流したとうろうは回収できません」と明記している会場もあります。これは回収しないという意味ではなく、参加者の手元には戻らないという意味です。だからこそ、書く言葉は流す前によく考えておく必要があります。
実用的な注意点として、会場ではスタッフの指示に必ず従ってください。流す位置が決められているのは景観のためではなく、回収を成立させるためです。良かれと思って別の場所から流すと、回収網に入らず下流へ抜けてしまいます。
2018年、金沢で600個が燃えた|火を扱う行事のリスク
安全面のリスクも現実に存在します。2018年6月1日、金沢百万石まつりで約1200個の灯籠を川に流したところ、密集した灯篭に火が燃え広がり、約600個が燃えるという事故が起きました。流した数の半分が焼失した計算になります。
原因は灯籠の密集です。灯篭は紙と木でできた「火のついた燃えやすい物体」であり、それが水面で寄り集まれば延焼します。美しい光景の裏側には、こうした物理的なリスクが常にあるという事実は知っておくべきでしょう。
だからこそ、会場では流す間隔やタイミングが指示されます。「早く流したい」と列を無視して割り込むと、灯籠が固まって危険な状態を作ることになりかねません。順番を守ることは、マナーであると同時に安全対策でもあります。
また、風の強い日は主催者側が中止や規模縮小を判断することもあります。せっかく現地まで来て見られないと落胆しがちですが、これは事故を避けるための判断です。行事の当日は主催者の告知やSNSを確認してから会場へ向かうようにしてください。
実は「自分たちだけで川に流す」のは避けたほうがいい
意外と知られていないのですが、灯篭流しは「自分の家の近くの川で勝手にやっていい行事」ではありません。近年は環境保全のため、灯籠や供え物を川や海へ流すことを禁止している自治体もあり、主催団体が定めたルールに従うことが前提になっています。
川はほぼすべてが管理主体を持つ公共の水域です。そこに火のついた物を流すという行為は、河川法や火気の扱い、廃棄物の観点から問題になり得ます。故人を偲ぶ気持ちがどれほど純粋でも、無許可の行為であることに変わりはありません。
では家庭でできることはないのか——というと、代替の方法はあります。玄関先で送り火を焚く、盆提灯を灯す、庭やベランダで手を合わせる。灯篭流しの本質が「送り火」である以上、水に流すことは必須条件ではないのです。この点を理解しておくと、無理に川へ行く必要がないこともわかります。
注意点をもう一つ。SNSで「自作の灯篭を近所の川に流してみた」という投稿を見かけることがありますが、真似しないでください。回収の仕組みも安全管理もない状態で火のついた物を流すのは、環境面でも安全面でもリスクしかありません。参加したいなら、正式な行事に出向くのが唯一の正解です。
灯篭流しに参加できなくても、送り火の意味は自宅で果たせます。飛騨地方では今も、8月16日の夕方に玄関先でオガラを焚く家が残っています。焙烙という素焼きの皿にオガラを折って積み、火をつける——これが送り火の基本形。灯篭流しは、この火を川の上に置き換えたものだと考えると、両者のつながりが見えてきます。

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まとめ|灯篭流しは「きれいな夏の風景」ではなく、送り火だった
灯篭流しの意味は、お盆に迎えた先祖や故人の霊が迷わずあの世へ帰れるように、川や海に灯りを浮かべて道を照らす送り火です。玄関先で焚く送り火と役割はまったく同じで、それを水の上で行っているだけ。起源は中国の中元節にあるとされ、色紙の蓮華燈を流す風習が日本のお盆と結びついて根づきました。
混同されやすい精霊流しは、長崎を中心に九州で行われる別の行事です。藁や板で作った船を遺族が曳き、爆竹が鳴り響く中を進む。静かに手を合わせる灯篭流しとは、形式も担い手も参加のしかたも異なります。「呼び名が違うだけ」という説明は、実態に照らすと正確ではありません。
そして岐阜には、旅行者が立ち会える送り盆の夜が二つあります。飛騨市神岡町の灯籠流しは昭和41年から続き、毎年8月15日の18時30分から19時30分、高原川の河原を灯りが埋めます。郡上市八幡町では例年8月17日、郡上おどりの熱狂が去った翌日に灯篭が流されます。どちらも観光イベントではなく、地域の人が続けてきた法要です。
参加を考えているなら、まず表記の使い分けを覚えてください。「灯篭」と「灯籠」は意味に違いがなく、どちらも正しい表記です。「籠」が常用漢字、「篭」が2000年に認められた許容字体という関係で、主催者によって書き方が分かれています。目当ての行事が検索で見つからないときは、両方の字と「とうろう流し」「燈籠」を試してみてください。
費用の目安も知っておくと動きやすくなります。広島のピースメッセージとうろう流しは1個1,000円(現金のみ)、福井の永平寺町大燈籠ながしは供養燈籠2,000円・願い燈籠1,500円、富士河口湖灯籠流しは無料。受付の締切時刻も会場ごとに違うため、日没ぎりぎりに到着する計画は避けたほうが確実です。
最初の一歩としておすすめしたいのは、今年の8月15日、飛騨市神岡町へ足を運んでみることです。高山ICから車で50分、飛騨市神岡振興事務所駐車場に停めて徒歩5分。18時30分、高原川の河原に立って1時間ただ灯りを見るだけで、この行事が何であるかは言葉で読むよりずっと深く伝わってきます。前々日の8月13日・14日には納涼花火大会もあり、同じ河原で轟音と静寂の両方を味わう2泊の旅にもできます。
※開催日程・時間・料金は変更される場合があります。お出かけ前に各主催者の公式サイトまたは自治体の観光担当窓口で最新情報をご確認ください。

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